噛み合わせとパフォーマンス-その3
3.噛み合わせの変化がどのようにして歪みをつくるか/上下の犬歯の位置関係の重要性。
噛み合わせを語るに欠かせない歯は顎の骨にあります。
下顎の骨は顎関節と呼ばれる関節が二つあり、そして下顎の骨の周りには136個もの筋肉があります。
下顎骨のぶら下がる頭蓋骨は上の歯が並ぶ上顎骨を含め23個の骨の集合体です。簡単に言えば立体的なパズルみたいなものです。その立体的なパズルが下顎や首と筋肉によって繋がっています。なので、例えば単純に奥歯が抜けて放置しておけば筋肉のバランスが崩れて過緊張を起こす筋肉が現れ、よけいな力や方向に頭蓋骨や首が引っ張られて歪みが起こるというわけです。歪み、傾いた立体的なパズルにあたる頭蓋骨や頚椎の中には脳、脊髄があります。その状態でストレスがかからないわけがなく、結果としてなにが引き起こされるかは一言では言い表せれませんが、そこには多くの問題が起きる可能性があります。
歯が抜けなくても同じことは起こります。
特に上下の犬歯(前から数えて3番目の歯/上の歯だと八重歯と言われる歯)の噛み合わせ関係の悪い場合は下顎の位置がずれやすく、歳を重ねていくごとに歪みを強めて重症化しやすいと言えます。
(菱形ぽい形の絵が犬歯のつもりです。前歯の大きさは下の歯の方が上の歯と比べで細いので、問題なく並んでいればTypeⅠのように半歯下の歯の方が前に位置する関係性になります。Type1だけが正しく、TypeⅡもTypeⅢも問題を抱える良くない関係です。後に話しますが松坂選手の右側の犬歯関係はType1?TypeⅢのどれでもなく、関係性がありません(噛み合わせがない/当たっていない)。今回御紹介させていただく他の選手もType1ではない方が多い気がします。
左右どちらかがType1の関係にあり、反対側の犬歯関係はそうではないということも多々あります(松坂選手はそれに該当していると思われます)。そしてその場合基本Type1ではない側へ下顎はずれ、顔は歪んでいきます。
下顎のずれ方は単純に右、左といった平面的なものではなく三次元的なものなので、犬歯関係の崩れている側へ下顎はずれるという傾向はまちがいなく強いと思いますが、一人として同じではない多種多様なずれかたを起こしています。
なぜずれるのか、歪むのかというと、上の図で指す矢印の方向、横方向へ下顎を動かした時、Type1は上顎の犬歯の斜面を使うことができて角度をつけて口を開くことができるので、動かした時奥歯が噛まない(当たらない)状態ができます。これを歯科ではディスクルージョンと言い、この状態がつくれるかどうかは噛み合わせから身体に問題を起こさせないために非常に重要な要素となります。
なぜならば奥歯が噛むと咬筋(食いしばると奥歯のあたりの下顎の筋肉がピクピクと動く筋肉。ちなみに前歯だけで噛んでもピクピクとは動きません。前歯と奥歯では与えられている役割が違い、主として動かす筋肉が違うからです)が中心に働き、強い力がもたらされます。
下顎を前に動かした時も犬歯より前に並ぶ前歯の角度と上下の関係により角度を持って口を開くことが可能になり、ディスクルージョンが起こります。これもまた同じ理由で重要な要素です。なので前歯が当たっていない人は良い状態をつくることが困難と言えます。Type1は下顎が動いている時、下顎後方や側頭から頸部に過緊張を起こすことなく、首の回旋運動の可動を十分に確保し、強い力が欲しい時筋肉を緊張させるコントロールが可能です。TypeⅡ、TypeⅢ、咬合がなく関係がない場合は横に動かした時、上顎の犬歯の斜面を下顎の犬歯が使うことができないので下顎の動きに角度がつきません。そのため犬歯より奥の歯がいつでもがりがりと強く当たってしまい、咬筋を始め僧帽筋、胸鎖乳突筋、強い力を作り出す筋肉は過緊張を起こし、頭蓋骨をひっぱり、歪みを生み、頚椎は、傾き、捻じれます。
噛み合わせという言葉は知っていても、正しい噛み合わせはどんな状態?と尋ねられてもなかなか答えられないものです。
それには3つの条件があります。
①全身の整った状態で、重心のとれている正しい位置に下顎骨があること。
(成長の問題があるので、歪んでできあがっているもの、下顎骨が変形しているものはありますので、シンメトリーがとれている位置が最適な位置ではありません)
②①の条件下で上下の歯の位置が正しいこと。
③①②の条件下で歯の形が正しいこと。
(歯はどの歯同士があたってもいいものではありません。それぞれに役割があり、大きく分別けても前歯と奥歯とでは動かす筋肉が違います。奥歯は強い力を発揮する咬筋を主体に動かし、前歯は強い力がかかりすぎないように下顎の周りの筋肉を繊細にコントロールしながら側頭筋を主体に動かします。歯の形によって動きの中で歯の当たるポイント当たらないポイントが生み出されます。つまりはそれにより筋肉の緊張、緩和がつくられ、過正しい形により過緊張を生み出すことを防ぎます)
③に書きました筋肉の緊張、緩和がうまくつくれないと、結果①の下顎骨のズレにつながります。ズレると②の歯の位置も崩れてきます。
アスリートの調整のポイントはレントゲン写真でどの方向に崩れているのか、なぜ崩れているのかを確認して、形を修正することで、過緊張を起こしている、下顎周囲、頸部の筋肉の緊張を緩和させることで重症化を防ぎ、パフォーマンスの向上を促します。
ただし、前に錦織選手を例に挙げさせもらいましたが、下顎の位置を大幅に変えると噛めない、噛みにくいという時間が生まれてしまいますので、大幅に改善を狙う治療上はそれでよいのですが、アスリートのパフォーマンス向上のための調整上では避けなければいけません。